2003年8月15日。スペイン東部、ムルシア地方のラ・ウニオン。
かつて鉱山の町として栄えたこの町の中心にそなえる昔の市場が今は“カンテの殿堂”として、スペインでも一、二の歴史を誇るフラメンコ・コンクールの会場だ。
第43回カンテ・デ・ラス・ミーナス国際フェスティバルの中心となる、このコンクールの準決勝は13日からの三日間にわたって行われた。今年の出場者の中で最も注目を集めた二人が、この日登場した。小松原庸子舞踊団員の南風野香と平富恵である。
コンクールはじまって以来の日本人セミファイナリストとして現地の新聞にも大きく報道されたので、プレッシャーもあっただろう。が、それをみごとにはね飛ばし、素晴らしい舞台をみせてくれた。
この日のトップバッター、平富恵は深紅の地に黒のレースをあしらった伝統的なバタ・デ・コーラで登場した。カスタネットをみごとにつかいこなし、バタを美しく舞わせ、シギリージャスを踊る。その風格。マティルデ・コラルやミラグロス・メンヒバルに代表される、セビージャ派とよばれる女性舞踊の粋を、日本人舞踊家がみせてくれるなどとスペイン人の誰が想像しただろうか。歌をゆっくりと刻んで、女性らしく優美でしっとりした舞踊。鳥肌がたつくらいの感動だ。客席もしーんとして見守っている。識者も、ファンも、みなが驚いた。それくらいすばらしい舞台だった。
この日のラストをつとめた南風野香も健闘した。茶色の衣装にレモンイエローのブラウスをふわっとまとい、もともと鉱山の歌であったタラントを見事に踊りきった。
上品で繊細な動きがこの人の持ち味だ。ポーズの美しさはどうだろう。ほれぼれしてしまう。この人が日本人?そうだとわかっていながらも信じられない気分だ。クラシックバレエで鍛えた細く、しなやかな身体がスペインの舞台に舞う。文句なく美しい。
二人の、フラメンコと真摯に向き合ってきたその心がそのままあらわれたかのような静謐で美しい舞台に、感動したのは私ばかりではない。この夜、何人の人から声をかけられたことだろう。フラメンコ舞踊家、批評家、研究家、新聞記者、ファン、観客たち...。みな声をそろえて彼女たちを絶賛した。
「とにかく素晴らしかった。驚嘆した。日本人であそこまで踊ることができるとは」
二人の師、小松原庸子氏が、本場スペインから遠く離れた日本の地で、長年フラメンコとまっこうから向き合い、愛し、いつくしみ、学び、教え、はぐくんできたものがここに開花したのだろう。
同じ日本人の、フラメンコを愛する者として、素晴らしい舞台をみせてくれた二人に心からのありがとうを。あなたたちを誇りに思います。そして彼女たちの前を歩いてきたたくさんの先輩たちにも深い感謝を。
フラメンコ・ジャーナリスト
志風恭子
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