フラメンコのベテラン・小松原庸子の息の長い創作を支えるのは、旺盛なチャレンジ精神と自由な発想だ。この両面を舞踊団創立40周年記念公演シリーズの最後でも発揮した。 太鼓の林英哲とフラメンコ・ピアニストのドランテ。奏法もリズムの取り方も異なる2人の共演を実現させたのだ。
そびえ立つ太鼓に向き合う林。見慣れた光景だが、いつもとビートが違う。フラメンコ特有の12拍子の基本リズムを心がけてたたいているようだ。その豊かで温かな響きが、ドランテのきらびやかで硬質な音を包み込んだり、戯れたり。自在な掛け合いが心地よい。
小松原が現れると、「シギリージャ」という深遠な曲を踊る。林と弟子たちがたたくうちわ太鼓と、和装のスペイン人の足拍子が空気を引き締める中、リズムを巧みにつかんで胸を張り、肩をいからせたポーズを決める。優雅で風格のある姿形から、スペインと日本の感性を融合して独自のフラメンコを確立した、この人の生き方がにじむ。
今を感じさせるスピーディーな踊りも登場した。期待の若手・丹羽暁子の、音符が見えるような表情豊かな舞。貴公子・フンコの、端正で目の覚めるようなテクニック。極め付きは、ドランテの代表作「スール」だ。チェロとオーボエを加えたバンドが色彩豊かに演奏し、林の太鼓が細かく力強いリズムの輪郭を浮き立たせる。井上圭子らの群舞は身体の美しい線を見せながら鮮やかに隊形を変えて彩りをあふれさせた。=写真=
西と東、昔と今が響き合い、見るうちに心が躍動した快作だ。振り付けは小松原、ガジャルド、クリージョら。
− 祐成秀樹 -9日、初台・新国立劇場。(撮影:大森有起)
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小松原庸子スペイン舞踊団創立四十周年記念の最終公演、「ひびき~西と東~」が異色のゲストを招いて行なわれた。
まず、舞踊団とスペインの男性ダンサーによる、クラシコを主体としたコンサート。 逆光を巧みに使って深い空間のなかに谷淑江らのダンサーが浮かびあがる「ラ・ビダ・ブレベ」から、井上圭子らの「カディス」、石井智子、南風野香、平富恵が男性と踊る「ベナモール」。そして、椅子を操りながら多数の男女によって繰り広げられる「ダンサ・デ・シージャ」まで、カスタネット、ダンスと、色彩豊かな良質のショウを見ているようだ。そのなかで第二曲、若き騎士を思わせるダビ・サンチェスの「シルク・ドゥ・ソレイユ」では現代的な感覚の動きによるドラマを見せた。
第二部が、作品タイトルにふさわしい東西の饗宴。まずイントロダクションで林英哲の太鼓、スペインのピアニスト、ダビ・ペーニャ・ドランテの、それぞれを紹介するソロに多くの男女ダンサー、ミュージシャンが加わり、大セッションとなる。男性ダンサーは白黒のカミシモを想起させる衣裳。センター奥から小松原が登場、クリージョ・デ・ボルムホスとのデュエットをしっかり見せる。ホリゾントの映像も浮世絵を思わせる。間に群舞をはさみながら、まずスペインでも名高いエル・フンコのソロ。長身を効果的に使って抑揚十分のサパティアードを見せる。さらにドランテの演奏。フラメンコ一家の出身で嘱望されるピアニスト、スタイルはむしろジャズやフュージョンに近いが、なかなかの技巧派だ。そして英哲が風雲の会のメンバー四人を従えてダイナミックに太鼓を操る。フィナーレにはピアノ、太鼓、カンテ、ギター、オーボエ、パーカッションなどが、ダンサーたちと刺激しあい、主張し合い、全体が一つとなって舞台を創り上げる。西と東にピアノによる新大陸の香りも加わって、時空を超えた融合共存が実現した。
− 1月9日夜 新国立劇場中ホール うらわまこと
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