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トマティート 理屈を超えた「気」に感電 |
朝日新聞紙評
2003年4月28日 夕刊
「気」というのは不思議なもので、その存在を証明することができないかもしれないが、フラメンコ・ギタリストのトマティートが新国立劇場中劇場(東京・西新宿、13日)のステージに出てきたとたんに空気が明らかに変わった。
ウェーブのかかった長い髪、黒のズボンに濃い青のシャツというシンプルな格好の彼が静かに座り、前奏のような感じでギターの弦に軽く触っただけでまた電気が走った。 |
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名人の演奏に出くわした時に味わう特別なスリルだ。テクニックとは必ずしも関係のない感動だ。
彼は稀に見るテクニックの持ち主でもあるが、理屈を超えたこういうパワーは漠然と「ソウル」としかいえないだろう。
ピーター・バラカン(ブロード・キャスター)
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ホアキン・グリロ「スペインの情熱」 |
コルテスをしのいだ男
男性舞踊の粋を極めた男
スペインの情熱を体感させてくれるフラメンコの粋
今スペインで最も評価されている踊り手、ホアキン・グリロである。彼ほど情熱という言葉にふさわしい踊り手はいない。熱気あふれるそのパフォーマンスには誰もが引き込まれてしまう。
世界各地のどの公演でも、スタンディングオーベーションになる人気を誇る。いや人気というよりも、それが彼の実力なのだろう。凛とした男っぽい風貌。舞台の上の彼は誰よりも颯爽としている。その姿の、たたずまいの美しさはたとえようがないほどだ。
どんな動きをしても美しい。腕や手、指、頭・・・。身体のパーツのすべてがそこから5ミリずれても完璧ではなくなってしまう、という絶妙な
ところに決まるのだ。
超絶的なリズム感!その“間”の良さはフラメンコの通をもいや、どんなジャンルの音楽の専門家も唸らせる。彼は舞踊家であるとともに、その靴音はもちろん、全身で歌うのだ。ミュージシャンなのだ。
それを支える卓越した技術。
表現したいという衝動・・・“なにか”を希求する一直線な思い。少年のような一途さで、自らの情熱のまま、なにかをひたすらに追いかけていく。
そうしてその踊りは、観ている者の中に眠る情熱をもかきたてる、それがホアキン・グリロである。
志 風 恭 子 (フラメンコ・ジャーナリスト)
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